離島移住を決断した“行動と思考”のリアル【後編】

前編では、都会での便利さの裏で感じた“違和感”と、久米島で見つけた心の解放感についてお話しました。
今回は、実際に移住を決断するまでに私がどんな行動をして、どんな葛藤や学びを得たのか、そして島で暮らし始めて見えてきた現実をリアルにお伝えします。
動き出して初めて「本当の自分」が見えてきた
都会で流されるように働いていた頃、どこかで「このままでいいのかな?」という違和感を抱えていました。
けれど、ダイビングをきっかけに久米島と出会い、行動を積み重ねたことで、自分らしい働き方・暮らし方の輪郭が少しずつ見えてきました。
移住は、決して特別な人だけができるものではありません。小さな一歩を踏み出す勇気が、未来を変えるきっかけになります。

“やってみる”ことでしか見えない景色がある
頭の中で考えているだけでは、何も変わりません。
小さな一歩でも踏み出すことで、今まで見えなかった景色やチャンスが見えてくるのです。
私の場合は、「島で薬剤師として働いてみたい」という漠然とした思いを、薬局に連絡して見学に行くという“具体的な行動”に変えたことが転機になりました。
行動したからこそ見えてきた景色

1.チャンスを待つ時間も学びに:東京での準備期間
久米島での薬局見学の帰り際、食事会の席で私は思い切ってこう伝えました。
「今は東京で薬剤師として働いていますが、もし空きが出たら働きたいです。」
その時、当時の薬局長が笑顔でこう答えてくれたんです。
「ご縁があったときには、ぜひ久米島で一緒に働きましょう。」
胸が高鳴る瞬間でしたが、連絡が来るまでには少し時間がかかりました。
「早く久米島に行きたい」と気持ちが焦る時もありましたが、**「その時が来るまでに自分を磨こう」**と気持ちを切り替えることにしました。
東京での仕事は、それまでは目の前の業務に取り組む日々でした。
しかし、久米島で働くチャンスを意識し始めてからは、目標ができたことで自然と仕事に向き合う姿勢も変わり、学びの意欲が高まっていきました。
東京の大きな店舗では、私はたくさんいる薬剤師のうちの一人にすぎませんでした。
一方、久米島の薬局には数名しか薬剤師がいません。
だからこそ、少しでも即戦力として働けるよう、調剤や服薬指導だけでなく在宅業務にも積極的に取り組み、日々の経験を大切にしました
処方箋枚数が多い店舗での調剤・服薬指導はもちろん、少しでも多くを学びたいと新人ながらも積極的に在宅業務に手を挙げました。
「患者さんを薬局で待つだけじゃなく、実際の生活の場を見てみたい」
そう思い、先輩に同行して患者さんの自宅を訪ねたときのことは今でも鮮明に覚えています。
薬局には来れない状況の患者さんのリアルな生活を間近に見ることができたり、薬の管理にサポートが必要な状況――現場に行くことでしか得られない経験が、私の薬剤師としての視野を一気に広げてくれました。
この期間に得たスキルや経験は、島で働く上での大きな財産にもなっています。
今振り返ると、あの「待ちの時間」はただの準備期間ではなく、自分を一人前に育ててくれた大切な時間だったと感じています。
待つ時間は「成長の時間」
チャンスが来るまでの“待ち時間”は、ただの空白ではありません。
自分を磨き、経験を積むチャンスと捉えることで、将来の強みになるのです。
2. 海外ダイビングで広がった視野

久米島に移住したら海外に行きづらくなるだろうと思い、思い切って飛び出しました。
特に印象的だったのは、モルディブで出会ったマンタの群れです。
ダイビング雑誌やテレビでしか見たことのなかった光景が、自分の行動で目の前に広がったとき、胸が高鳴りました。
水中で舞うマンタの姿を目の当たりにして、**「行動すれば世界は広がる」**と心から実感した瞬間です。
この経験を通して、島暮らしでも同じことを感じました。
どんなことも、やってみなければ分からない――行動することでしか見えない景色があるのだと。
3. 人生は一度きり。行動を決意した瞬間

モルディブから羽田に着き、荷物待ちをしているときに、携帯電話に留守録が入っていました。
「薬剤師の枠が空きました。もしまだ興味があればいかがですか?」
薬局からの待ち望んでいた、連絡でした。
胸が跳ねるような喜びと同時に、不安や葛藤も押し寄せました。
都会を離れて生活できるのか、今のキャリアを手放していいのか、家族はどう思うのか――。
特に、父が闘病中だったからこそ、迷いは大きくなりました。
その頃、父は闘病中でしたが、私は移住を考えていることは相談していました。
「〇〇ちゃん、自由に生きなさい。」と私にメッセージを残してくれました。
最後に決断できたのは、「やらないと後悔が残るから、迷っているならやった方がいい」という母の言葉でした。
こうして私は、ただのチャンスではなく、自分の人生を前に進めるための決断を下したのです。
4. 島で働き始めて気づいたこと
島での薬剤師ライフは、都会とはまったく違いました。
まず患者さんが違います。都会ではスーツ姿の人が多いですが、島では赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年齢層の方が来局します。
都会では急いでいる患者さんが多い印象でしたが、島では体調や血圧の変動についても素直に答えてくれ、コミュニケーションがとても取りやすいと感じました。
業務内容は大きく変わらなくても、薬の取り扱いや規模感、薬剤師の人数は違い、最初は慣れるのに必死でした。
それでも、患者さんとの他愛のない会話や「新しく入ってきたの?ずっといたらいいさ〜」という声かけに、都会では考えられない温かさを実感し、安心感も得られました。
この島には住民約7,000人、薬剤師は8名ほどです。
少人数だからこそ、自分の仕事が地域の健康に直結している実感があります。
そのため、日々“人と向き合う仕事”の本質を感じながら、仕事の手ごたえややりがいをしっかり実感できる毎日です。

5. 島で暮らし始めて見えた“都会との違い”
移住して初めて、都会では当たり前だった便利さやスピード感が当たり前ではないことを実感しました。
ネット通販の配送が1週間かかることもあります。
欲しい物がすぐ手に入らず、手にとって選べないこともあります。
天候次第で船や飛行機が止まることもあります。
でも、この不便さには不思議な魅力があります。
足りないものは足りないなりに工夫する。
たくさんの中から選ぶのではなく、あるものの中からベストを選ぶ。
急がないものは必要に応じてネットを利用し、すぐに届かなくても待てる寛容さを身につけました。「そのうち届く」くらいの気持ちで大丈夫だと感じられます。
物だけでなく、娯楽も同じです。
不便さや物足りなさを感じることもありますが、だからこそ那覇に出たときの楽しさや感動は大きく感じられます。
不便さはあるけれど、東京ではスーパーですらつい迷ってしまった私には、久米島の一番大きいスーパー、Aコープの規模感がちょうどよく感じられました。
それが、私にとっての「ちょうどいい島暮らし」です。
小さな一歩が未来を変える

あのとき行動したからこそ、今の私があります。
都会で感じた違和感を無視せず、少しずつでも動き出したことで、自分らしい暮らし方と働き方を見つけることができました。
移住は大きな決断のように感じられますが、実際は「小さな一歩の積み重ね」。
その一歩を踏み出す勇気が、未来を大きく変える鍵になります。
小さな一歩を踏み出すことから始めてみましょう。
情報を集める、転職サイトに登録してみる、移住セミナーに参加する、気になる島へ旅行してみる――そんな一歩でも十分です。
その行動が、きっと次の景色につながります。